テーマ:「うつろう風景」と「変わらない風景」〜時間軸の中での風景を考える〜
最優秀賞
保阪日南子,崔 景舒,宮園茉莉亜,山下瑞貴,西山奈那
千葉大学, 東京大学
地紋~淡路島粘土を生かした棚田のこれから~
二次審査会用スライド
淡路島の棚田は、斜面の多い地形やそこを流れる水といった自然環境と、稲と玉ねぎの農作という人間の営みとが重なり合って生み出された景観である。しかし近年、高齢化や過疎化が進むにつれ棚田の利用が減少し、その伝統的な景観は消滅の危機に瀕している。そこで本案では、淡路島の伝統産業である瓦産業をささえる粘土性土壌の風化促進を新たに棚田のシステムに挿入する。採掘したばかりの土を棚田にまき、棚田の地形、土、水の流れを利用して瓦作りに適した粘り気のある土に変化させる。風化装置として新たに設計した小屋や畔、水辺空間は農家の方々や外から訪れた人々の居場所となる。変化する用途の中で、変わらない棚田風景を提案する。
優秀賞
呉 暁龍, 茅沼耕平, 新井奏音, 渡 由貴, 浦野昂大
東京大学大学院,法政大学大学院, 東京大学
縁庭 うつろいの中で、伝統を魅せる。
二次審査会用スライド
鬼怒川の最上流域に位置する日光市栗山郷には獅子舞の伝統がある。この地域はダム建設などの大きな変化を経験しながらも、その伝統を脈々と受け継いできた。しかし舞い手を担ってきた若者の減少により、獅子舞文化の存続が危ぶまれる集落も増えている。そこで栗山郷の獅子舞の魅力を地域の外へ広く伝えるために、獅子舞という伝統芸能が地域の様々なうつろいの過程を経ても今に至るまで栗山郷固有の風景として演舞され続けてきたというその力強い事実が人を惹きつけると私たちは考え、まさに栗山郷が経験してきたうつろいを感じられる湯西川ダムマゴリ沢で、各集落の獅子舞が一堂に演じられるプログラムとそれを可能にする空間の設計を提案する。
山本祐子
千葉⼤学⼤学院園芸学研究科
-心の故郷に戻る- 福島第一原発 立ち入り禁止区域の次世代へ
二次審査会用スライド
2011年、原発の事故により、福島県全域に放射能が降り注いだ。除染で発生した汚染土壌は、原発がある大熊町に運び込まれ、2045年まで立ち入ることはできないとされる。そして土壌貯蔵施設建設のため、森や田畑は消え、かつての風景が失われた。現在、負の遺産として扱われる汚染土壌を、人と環境(原発)の関わりにより生じた大熊町の歴史の一部として捉え、教訓として継承しつつ、町の未来の風景づくりに利用する事を提案する。手法として、ブラウンフィールド再生の技術を導入し、人が再び立ち入り、汚染土壌の浄化過程を風景と見ることを可能にする。かつての町の記憶は風景として新しい世代に継承され、未来へと紡がれる。
佳作
角岡紗衣, 加藤優侑,中村紗也佳
奈良女子大学大学院,奈良女子大学
月明かりに君想ふ~天橋立が繋げる人と自然観~
二次審査会用スライド
天橋立は、天へ舞い上がる竜のように見える遠景の眺望(変わらない風景)が有名である。だが砂浜の侵食により存在そのものが危ぶまれる状態であったため、海流を考慮した角度に突堤と潜堤を設置し、砂を堆積させ汀線の連続性を確保しているという遠景を守ってきた軌跡(うつろう風景)がある。天橋立を守ってきた人々の努力を受け取り、月が綺麗に見える突堤の1本の軸をムーンヴィスタとして毎月の満月と結びつける。自然の摂理にならった土木的軸線上に身置くことで、ヒューマンスケール的に自然との関係性を図り、人と自然観を結びつける。またその軸線にグリーンインフラ機能を持たせることで松や阿蘇海の環境改善を行う。
佐藤寧珠, ⻘⽊ 遊, ⼩林雅果, 松⽥ 彩
札幌市立大学
記憶の杜〜託された憶いを次へと紡ぐ〜
二次審査会用スライド
札幌オリンピックを契機に切り開かれた大倉山は文化の蓄積によって大切な価値を持つ場所になった。本提案では、大倉山シャンツェが100周年を迎える2031年を中間地点とし、さらに100年後の2131年に向けた計画を行う。ジャンプ台を人工物の風化と自然の営みを観察できる天然林、観客席を植樹によって作り出される人工林へと変化させ、現在も大倉山シャンツェを囲んでいる原生林と合わせて三種類の森が共生する緑地空間を生み出す。大倉山シャンツェを本来の森に戻すのではなく、「人の営みの記憶を継承する森」へと再生する。人と森が共にうつろう風景を託された杜は、100年後の札幌へ変わらない風景を紡いでいく。
伊藤沙弥香,近藤祐衣
奈良女子大学大学院
梅の礎 -BAIKEI INFRASTRUCTURE-
二次審査会用スライド
烏梅産業の風景から始まった月ヶ瀬梅渓は、渓谷と梅の美しい風景が人々を魅了している。生業が衰退した現在は「梅はまちのシンボル」という住民の共通認識により保全されているが、観光業の縮少や老木の増加など梅渓の継承に課題がある。 うつろいながら続いてきた人と梅の関わりを受け、新たな手入れを支えるインフラ「梅の礎」を提案する。地形を活かした実の収穫、オーナー制度、梅の更新システムにより、梅渓に新しい体験や眺望を生み出す。礎は農を営むまちの風景から抽出された素材から構成され、人々が手入れを継続していく契機となることで、梅渓はまちの大きな庭へと育っていく。 梅渓が愛され、人と共に生き続ける未来を考えた。
米谷佳也,小川千智,村田琴音
奈良女子大学大学院,奈良女子大学
神鹿苑
二次審査会用スライド
江戸時代から時間軸の中で形成されてきた、鹿と人が共生する美しい風景をランドスケープ遺産ととらえ、その風景を下支えする鹿の収容所「鹿苑」の在り方を再検討した。鹿と人の境を、既存の柵から見直し、サクラを守る境界、鹿の生活環境を守る境界、水系を守る境界の三つに改め、単なる保全にとどまらず、新たな役割と魅力を付与した。訪れた人々は、鹿の墓である桜の回廊を進み、この境界越しに悠々と駆ける鹿たちを見て、ここに鹿が囚われている所以が人間であることを知り、そして自らの態度を悔いる。この新たな鹿苑の提案によって、水質悪化という景観的課題から、人の態度という精神的課題など、隠されし奈良公園の課題を解決する。
入賞
宮脇由奈,須田真理,岡崎隼也
名古屋市立大学大学院
折り重なる記憶
二次審査会用スライド
愛知県瀬戸市では層群から採れる粘土により焼き物産業と人々の暮らしが密接なものとなっている。一方、採土場ではかつての自然地形はその形をなくし、広大な人工地形が私たちの目の前でその範囲を広げている。掘り尽くされた採土場はやがて埋め戻され、また新たな地形が姿を現す。かつて生態系の一部だった場所が新たな土とともに再び生態系と関わるとき、そこにはどのような時間の流れがあるだろうか。本提案では地形を記憶するプロムナードと埋め戻しのプロセスをデザインすることで、異なる時間軸を持つ地球の表層、空間の在り様、生き物の営みのあいだの交わりを創造する。
野池優⾥花, 北島未来, 仲⼭祐未, 三村安澄
東京農業大学大学院
煌めく大地と月夜のはざま 銅山谷の産屋で生をうける
二次審査会用スライド
生命に対する向き合い方は社会構造の変化とともに変わり続けている。 「命とは何か」「地球に降り立った私たちは大地とどう繋がれてきたのか」という問いに向き合う地として、「銅山谷の産屋」を東平地区別子銅山に提案する。 人の産まれ落ちる場所を再認識するための”軸”を定義づけた。地球の地層をx軸、東平の人々の生活を繋いできたy軸、天と地を繋ぐz軸とした。銅(x軸)が地を編む集落内で生まれおちた子どもが家族と過ごす。y軸を伝ってこの拠り所から旅立った命は、やがて自身の生まれ落ちたこの地へと還ってくる。姿をかえ続けてきた集落の移ろう風景のなかに、人々が繋いでいく生命の息吹が続くことを願い、設計を行った。
林 ⾬炫, 李 東霖, 張 思語, 櫻庭由樹 唐渡夏実
千葉大学大学院園芸学研究科,北京林業大学
茅の息吹-白川郷合掌造と共に未来を創る物語
二次審査会用スライド
人々の生活や四季折々の風景を詠む俳句は、時を超えてその情景を私たちへ共有する。しかし、科学技術の発展や社会構造の変化により人々の営みが変化し、かつて原風景として詠まれた対象が姿を消すことで、その情景を将来に継承することは難しくなってしまう。季語「茅花流し」は野原に銀白色に揺れる花穂の風景を連想させるが、現在国内の茅場は著しく減少し、茅葺屋根の戸数も減少している。本提案は、長い時間軸の中で山村の自然環境と人々の暮らしが息づく岐阜県白川村荻町を対象地に、「茅」に着目して生産から茅葺までのプロセスの風景化を行う。住民と旅行者などを巻き込み、人の営みが風景に表れ続ける白川郷の在り方を提案する。
謝 定,⼩野 真,神之薗 昂輝, 岡庭まつり, 宇野瑞希
東京農業大学大学院,東京農業大学造園科学科
つちまち~彩る土岐、巡る陶器~
二次審査会用スライド
美濃焼は我が国の伝統工芸品のひとつである。岐阜県土岐市は古来から美濃焼生産地の一大拠点であるが、陶器産業の継承者不足も相まって地域の活性化に繋がっていない。そこで私たちは、土岐市の陶器産業をまちづくりの骨格としてJR土岐市駅周辺の町並みと観光ルートのデザインを提案した。既存の建物(窯元や製土屋)に商業や観光などの別の産業が参入し、新たな町の風景を構築する。このデザインは悠久の時を経て町の風景を変化させていく。やがて、産業や地域の垣根を越えて土岐市に暮らす人間が支え合う地域共生社会を実現するであろう。継承されてきた美濃焼の技術と陶器をつくり続ける情熱の火は、土岐市と美濃焼の未来をあつく照らす。
奨励賞(高校生部門)
酒井健晴
明石工業高等専門学校
橋松乃寿 ー橋のそばに⽣き続ける舞⼦の⽩砂⻘松ー
兵庫県神戸市、淡路島を望む白砂青松のかつての舞子浜は天下の名勝と呼ばれていた。その姿は歌川広重の『六十六余州名所図会』にも描かれた。志賀直哉は『暗夜行路』の中で「塩屋、舞子の海岸は大変美しかった。…」と車窓の風景を書いている。 ところが現在の舞子公園は周辺の開発や明石海峡大橋の建設によりかつての白砂青松は失われている。その一方で、淡路島からの玄関口、神戸と明石の中間にあたり、人々のさらなる交流の拠点となり得る可能性を持っている。 現在の松林を多様な人々の憩いの場、交流の場に変えるとともに、かつての景観を復興していき、いつまでも続く白砂青松を目指す提案だ。
激励賞(高校生部門)
嶋﨑千恵, 星野美結,髙𣘺柚衣,二宮恵美香, 𣘺谷ほのか
群馬県立藤岡北高等学校
百年を結ぶ
対象地は群馬県藤岡市とし地域を百年後まで継承・発展させるデザインを提案する。藤岡市では人口減少とともに、観光名所である道の駅ららん藤岡や桜山公園が衰退している現状にある。そのため、持続可能な地域とするため関係・交流人口を増やすことが求められている。藤岡市には古墳や世界遺産である高山社などがあり、古くからこの地に縁がある。そこで、文化や歴史を結ぶ縁をコンセプトとした。ららん藤岡は自動運転を用いた桜山公園へのアクセスをデザインし、桜山公園は枯死が進む冬桜の継承を目的とし、古墳を活用したデザインを提案する。桜間公園がある鬼石地域では新たなライフプランにより関係・交流人口を増加するアイデアを提案した。
所属の表記は、原則として応募者からの記載に従っています。